もともと、マンションの壁越しに「音」でやりとりをするというアイデアは初めからあったのですが、そこから企画がなかなか進まず、悩んでいました。

この企画を考えていた2020年5月頃は、米ミネソタ州で「Black Lives Matter」

（BLM運動）が再び全米に大きく広がっていた時期でした。

その様子をテレビやSNSで見て、小学生時代、全く話したこともない年下の男の子に

「おい黒人」と言われたことや、その言葉にショックを受けたことを思い出しました。

それをきっかけに「国籍も生き方も違う２人が、音楽を通して一瞬のつながりを持つ話」というストーリーの軸が出来上がりました。

いろんな壁が存在する世界で、言語や人種という壁を作っているのは私たちです。

見方を変えれば、それから生まれる偏見や差別という壁を壊せるのも私たちです。

この物語はそんな「壁の存在」に着目した映画です。

主人公２人を隔てる「壁」が表すものは、コロナ禍で確立された新たな壁です。

「自粛」という壁から「オンライン」「電話」「zoom」「インターホン」といった壁を介してのコミュニケーション生まれ、そこから「すれちがい」「温度差」

「会えない距離」という新しい壁が生まれていきます。そして物語は田中とキムの間に隔たれた一枚の壁を介し「年齢」「国籍」「言語」さらには「偏見」という壁と向き合っていくことになります。

この映画が、「壁の向こう」から SNSよりも程近い,

誰かを想うきっかけになれば幸いです。